さらば外務省 天木直人 講談社
内部告発というものは、組織の内部で行われている不正を世に明らかにし、社会に貢献するものというのが本筋ではあるが、この難しいところは、不正か不正でないかが曖昧な場合ではないだろうか。
本書は、外務省の体質、ひいては外交における指導力のない（と著者が判断する）小泉首相に対する告発書とはいうけれども、どうも、独りよがりの私憤の色合いが濃く、いわば、外務省内部ゲバを省外に持ち出したイエローペーパー、レベルの低い暴露本でしかないようだ。
著者がレバノン大使の職を解かれた直接の原因は、イラク攻撃が秒読みに入っていた段階で、攻撃反対の意見具申電報を小泉首相、官房長官に送り、その写しを、中東各国の大使にも送ったという一件があったようだ。
著者はこの意見具申が取り上げられなかったことを「逆恨み」しているようだが、一外交官でしかない自分を誇大妄想視していることに気づいていないのだから困ったものだ。このことで外務次官から叱責を受けたことを、怒るまいことか、本書ではその件を含めて、いささかお下品な悪罵の限りを尽くしている。
しかし、この一件はだれでもが、常識として知っているように、著者の行為こそ非難されるべきであって、それが理由で外務省を辞めた後で、これだけぐちぐちいうのは、どうにも男らしくない。
とはいいつつも、いわゆる覗き趣味の暴露本だと思って読めば、本書の内容、すなわち著者のうらみつらみから発せられる外務省体質批判には、中々面白いものがある。
曰く、外務省キャリアーの物凄い唯我独尊のエリート意識、優雅な外交官生活、皇太子妃の実父である小和田恒氏などの、歴代、高級外務官僚の実名を挙げての人格批判などだが、まあ、まさに週刊誌を読むような下世話な面白さはある。
もっともキャリアー批判の一方では、自身がキャリアー官僚であったことの鼻持ちならないエリート意識が出てしまう部分などは、まさに「目くそ、鼻くそ」の類で、笑ってしまう部分が多い。
それよりなにより、これだけ外務省の悪口雑言をいうのならば、外務省の中にいたときに著者が、これだけの批判を行っていたかを知りたいと思う。外務省を首になってから、急に言い出したとすれば、まさに負け犬の遠吠えであって、格好の良いものではないから。
（03年10月発行）