ブレークスルー・マネージメント 司馬正次 東洋経済
企業経営に革新を求めるならば、それはたゆまぬ変革の積み重ねからではなく、従来の基盤を異次元的に飛び越えた、いわゆる「ブレークスルー」によって成し遂げられるというのが本書のまず前提とするところである。
シューペンターの「創造的破壊」の哲学の経営論版といったところであるが、確かに、一面の真理を含んでいることは認められる。
本書は、しからば企業がブレークスルーを生み出すためには、どのような仕組を持つべきであるかを説く。
著者がサンプルとして上げた企業は、まさに「ブレークスルー」を達成した企業であって、しかもそのブレークスルーが企業経営に好結果をもたらしたといえる企業であることに注意しなければならない。
伝統的手法を放棄し、いきなりブレークスルーを求めて、「創造的破壊」を目指した結果、単なる破壊だけで終わってしまったような悲惨な失敗例もあるとは思うが、そういう例はもちろん本書にはふれられていない。
さて、そもそも、「ブレークスルー」とは、従来の試行錯誤を飛び越えたところから出てくるものだという前提があるにもかかわらず、「それではブレークスルー的発想にはどうやってたどり着くのか」というハウツー物があることには、何だか違和感を超えた矛盾を感じないではない。
企業経営という実にエントロピーの膨大な実務を、「実践経営論」的なもので一刀両断にしようというこの手のハウツーは実に無数にあるけれど、どれも長続きした試しがないのはどういう訳だろうか。
「経営論」があるときは宗教運動と似通ったものになってしまうのは、どの経営論においても著者の自身に満ちた「私が、MITで教えた時」「ハンガリーで勲章を貰った時」といった、誇らしげな実績披露が、教祖様のご宣託に似ている所為かもしれない。
（03年11月発行）