安楽死のできる国 三井美奈 新潮選書
末期患者の延命治療を行わないといういわゆる「尊厳死」とは全くことなる、自らの意思で自らの死の時期を選ぶ権利、すなわち「安楽死」が法的にも認められている国オランダは、大麻・売春・同性結婚をも合法化している国でもある。
公共の害にならない範囲で最大限個人の自由を尊重するというオランダのユニークさは、一体どのような背景から得られたものなのだろうか。
本書は、30年間に亘るオランダにおける安楽死合法化の歴史をたどるとともに、オランダの持つ独特な個人主義の背景を探る力作である。
「安楽死」と「自殺幇助」の違い、あるいは、「自分の意思」を表しようのない、痴呆老人や、未成年、障害児などを対象とする「安楽死」の道徳的側面など、安楽死を巡る問題は実に多い。
本書はそのような、重い問題にもじっくりと取り組んでおり、又、新聞記者として記者が実地にインタビューするなどして得た、安楽死現場の迫真ルポなど、実に読み応えがある。
安楽死に対する考え方は、その社会が「個人の自由」に対してどれだけの許容度を持っているかの物指しになっている。宗教的な束縛にとらわれがちな西欧文明の中にあって、何故、オランダがここまで個人の自由を尊ぶ社会を築けたのか、文化・文明論としても中々面白い研究課題と言えるだろう。
(03年7月発行)