ほどらいの恋 田辺聖子 角川文庫
8年前の最初の見合いは散々だった。男は自分勝手で、最後には「今、忙しくて結婚どころではない」などと言ったので、こちらから断ってやった。
しかし、あれから、何回も見合いをしてきたけれど、なんだか、あの最初の見合相手以上の男はいないような気がして、妙に忘れられない。いつの間にか見合の声もかからないようになってきたのだがーーーーー。
そんな彼女の前に、あの8年前の男が現れた、彼も最初の見合相手であった彼女のことが、どうにも気になってしかたがないといい、今でも独身だという。二人は意気投合しデートをしたのだが、会うたびに最後は又、喧嘩になってしまう。さて、この二人、結局どうなるのかーーー。この短編集の中の、「ラストオーダー」のストーリだ。
その他に、8編の短編が納められているが、田辺聖子の描く「恋愛物語」と言ってよいだろう。恋愛小説によくある現実離れした絵空事ではなく、「そうそう！こういう恋愛ならばその辺にいくらでもありそう」と思わせる市井の人々のありふれた恋愛の物語が、却ってこれこそ恋愛小説の本道とさえ思わせる。
その他、まじめ一方でしかも頼りないと思っていたオトーサン（夫）に、ある時、十年間も浮気をしていたことを告白されと主婦の話、あるいは長い間、「男と女の友情」を育んできた二人に芽生える微妙な感情―――といった、なんとなくほんわかとしていて、可笑しい物語など、お聖さんワールドが心地よい。
（00年7月発行）