自虐の詩（上・下） 業田良家 竹書房
今から10年も前になるだろうが、週刊誌にこの「自虐の詩」が連載されていた際に、時々、目にしたことがある。不幸を絵に書いたような主人公幸江と、その暴力的で生活能力のない夫イサオを取巻く何とも「悲惨」なエピソードを４コママンガにしたてたものであったが、何とも風変わりな設定に妙に気になったものだった。
今回、上下二巻の文庫本を通してこの「自虐の詩」を読んでみて、この4コママンガの集積が実は一つの長編物語になっていたことを知った。
幸江の生い立ち、少女である幸江に寄生して生きているぐうたらな父、その父との貧しい父子家庭の家計を支えるために新聞配達までしていた貧乏な中学時代、イサオとのなれ初め、幸江に好意を寄せる食堂アサヒ屋のマスター、といった様々な場面が行きつ戻りつしながら4コマに描かれ、それが大きな物語になっているというのだから、何とも驚いた。
幸江の中学時代に幸江より更に貧しい暮らしをしていた熊本さんとの少女同士の友情、しかし利己的な理由からその熊本さんを裏切ってしまう幸江の心の葛藤といったストーリーにも中々引き込まれるものがある。
マンガとしてのギャグもところどころに折り込まれており、そのギャグのセンスも悪くない。つげ義春とはいかないまでも、何だか気になる漫画家ではある。この「自虐の詩」以外にはどんな作品を書いているのか、ちょっと興味が湧いてくる。
（96年6月発行）