ヘルタースケルター 岡崎京子 祥伝社
‘Beauty is but a skin deep’(美醜も皮一枚のこと)とは、シェークスピアの名台詞である。「朝には紅顔、夕に白骨」という名句も若さなどというものは一瞬のものであると言っている。
しかし、人は、特に女性はいつまでも美しく、若くあり続けたいと願う。
手塚治虫文芸賞を受賞した岡崎京子のマンガ「ヘルタースケルター」は、そのような若さと美しさを、全身の整形手術と、薬漬けのメインテナンスで得たスーパーモデル「りりこ」が主人公だ。
りりこの完全な美しさは、人々の絶大な人気を得る。まさに女王のように振舞う彼女の回りには人々が付き従い、それだけではない、一流デパート御曹司のフィアンセの座さえも彼女の眼前にある。彼女が肉体を酷使して得た美貌が、望むもの全てを与えてくれるかのようだ。しかし、これは逆に彼女がその美をいささかでも失う時に、彼女の手からすり抜けて行くべきものなのだ。案の定、整形と薬の影響から、彼女の肉体と精神はどんどん崩れて行くーーーー、何とも凄惨な物語である。
絶頂の人気ゆえに、自己中心の鼻持ちならない性格になっていくりりこは、マネージャーやまわりの人々をも、破滅の道へと引き込んで行く。
そう、これは「醜いアヒルの子」が白鳥になったものの、やがて、その美しさと若さを失い破滅して行くという、冷酷な物語だ。
人気にかげりが出始めた、りりこが同僚の若いモデルに持つ憎悪的な嫉妬、あるいは「サンセット大通り」のグロリア・スワンソンが演じた老女優や、しわくちゃだらけになったＢＢのようになってしまうのではという老いへの恐怖、といったエピソードが織り込まれ、この破滅の物語に深みを与えている。
コミックの世界の賞には詳しい訳ではないが、「手塚治虫」というビッグネームのついた賞を受賞したというのだから、コミック界でも高く評価された作品なのだろう。コミックだからと言って侮れない内容を持った作品だ。
尚、この作品の連載を終えた直後、作者の岡崎京子は交通事故に会い、今も重篤な病床にあるという。主人公、りりこの運命との妙な符合にも、驚かされた。
（03年4月発行）