ひとり旅は楽し 池内紀 中公新書
ひとり旅と一言でいうが、その旅の形は様々である。人生なり自分自身をみつめなおすといった求道的なひとり旅というのがイメージとしては主流かもしれないし、何か、風雅さを求めるひとり旅というのもありそうな気がする。
著者の勧めるひとり旅は、山下清や寅さんの旅のイメージである漂泊のひとり旅である。一見するといかにもぶらりぶらりと言った感じのひとり旅というところだろうか。しかし、いかに気ままなひとり旅といえども、それにはそれなりのノウハウが必要だと著者は言う。という訳で、本書では旅に持参すべき小道具、あるいはひとり旅における歩き方、よい宿の見つけ方といった具合に、ちょっと参考になりそうな著者流の旅のコツにあふれている。
又、「札所をまわる」「坂のある町」「海辺は冬がいい」といった具合で、ひとり旅ならこういうところに行ったらよいのではーーーといったガイドでもある。
実際に著者のひとり旅の思い出が語られ、その時の心象風景が、しっとりとした文章で綴られており、紀行文としても中々のレベルにある。
本書を読んでいると、自分もなんだかひとり旅に出たくなってきた。そう、近所をふらりとひとりで散歩する感覚でひとり旅を楽しむことができたら、これからの自分の人生において、随分と心は豊かになるだろうなと思えるから。
（04年4月発行）