ブラフマンの埋葬 小川洋子 講談社
前作「博士の愛した数式」では、数式という現実的でありながらシュールな世界を巧みに描いたこの著者だが、今回は、徹頭徹尾シュールさにこだわった秀作である。
ブラフマンとは何かは、最後まで明らかにされない。冒頭、「夏のはじめのある日、ブラフマンが僕の元にやってきた」とあり、それがリスのような、毛皮につつまれた愛くるしい小動物であり、けがをしていたことなどが述べられる。
ブラフマンはおへその下にちっちゃなペニスがあるから、オスであるとか、さまざまに描写されるので、読者はそれぞれのイメージでブラフマンを描くことができるだろう。
ブラフマンは「創作者の家」といわれるこれもどちらかというとシュールな芸術家村の管理人である「僕」になつき、ペットのようにここに棲み付いた。
「創作者の家」のある村の描写、その創作者の家に滞在している人々などが、ブラフマンを語ると同様に、シュールに描かれていく。
表題の通り、最後はブラフマンを埋葬する場面となるのだが、その埋葬の描写には、何だか思わず涙がこぼれるような気分になった。
川上弘美のシュールさもよいが、小川洋子のシュールもまた格別だ。
（04年4月発行）