霧笛荘夜話 浅田次郎 角川書店
港の外れ運河沿いの行き止まりのようなところに立つ古アパート「霧笛荘」の管理人は、纏足の老婆だ。その老婆が、アパートの6つの部屋に住む、6人の住人たちの人生を語るという、浅田次郎お得意のパターンの物語。
世の中の片隅に生きる人々の人生哀歌が漂い、ほろりとさせられ、それぞれ6人の人生が他の住人の人生に折り重ねられて行くという、いわゆる「オムニバス」形式の展開は、月刊誌の連載にはぴったりで、こういったところにも浅田次郎の名人業的な小説作り作法がうかがえる。
前半3話と後半3話が10年の間隔を於いて執筆されたのだとか。キャッチコピーにも使われている「不幸の文だけの幸せは、ちゃんとある。どっちかが先に片寄っているだけさ」という管理人の老婆の言葉が、物語全体を良く表している。
（04年11月発行）