傭兵ピエール（上・下） 佐藤賢一 集英社
英仏百年戦争の最後を飾るエピソードは、何と言っても聖女ジャンヌ・ダルクの活躍だろう。
「フランスを救え」という神の啓示を受けたという18歳の村娘ジャンヌ・ダルクが率いる王太子シャルルの軍隊は、まさに神がかり的にイギリス軍を打ち破り、シャルルは遂にランスにおいてフランス王シャルル7世としての戴冠を果たす。しかし、その後、イギリスとの休戦に入ったシャルル7世にとっては、あくまでも戦争の継続を主張するジャンヌは、厄介者になっていった。遂にジャンヌは英国同盟軍にとらえられ、神の啓示を偽った魔女として火あぶりの刑に処せられたといわれる。
中世フランス史に基づいて次々に作品を発表している佐藤賢一が本書で取り上げた時代背景は、まさにこのジャンヌ・ダルクが活躍した時代である。
傭兵隊長のピエールは、戦闘に明け暮れ、又、略奪も厭わない無頼漢だが、あるとき戦いに向かうジャンヌに会う。彼女を襲おうとしたピエールにジャンヌは、今、見逃してくれれば自分は神の使命を果たした後で、ピエールに処女を捧げると約束する。
ピエールとジャンヌは共に戦いつづけるが、ジャンヌは聖処女、フランスの救世主へと育って、ピエールからの遠い存在になっていってしまう。
あるとき、田舎町の守備隊長になっていたピエールに、ルアンで捕らえられているジャンヌ・ダルクを救い出して欲しいという依頼が飛び込む。ジャンヌの魅力を忘れられなくなっていたピエールは、思案の挙句、ジャンヌ救出へと立ち上がる。
物語展開が波乱万丈というべきか、又、奇想天外などんでん返しもあってページを繰るのがもどかしくなるほどだ。
読後、良く考えてみるとこの物語「そんな、ばかな〜」と思うところもあるが、それだけに、抜群の面白さだ。
（99年2月発行）