左遷！ 商社マンの決断 江波戸哲夫 講談社
嘗て飛ぶ鳥を落す勢いであった総合商社を80年代の後半「商社冬の時代」が襲い始めた。その頃の日本を代表する商社、三友商事を舞台に展開する経済小説だ。
時流物の経済小説という意味では、いささか賞味期限切れの感がないではないが、あの頃の商社の現場にいた者としては、何となく懐かしい部分もあって手にとってみた。
第一戦の鉄鋼一課長から、リストラのために新設された「総合企画室」に左遷された男、そしてその「植物園」と揶揄される企業内職安を設置したことで、会社との板ばさみに悩む人事課長、国家的プロジェクトの浮沈に関わり政界を巻き込んだ工作に奔走する男、という三人の同期を中心に、ストリーは展開する。
当時の、幾つかの商社スキャンダルなどをモデルにして、商社を取巻く人々の野望、葛藤といったものを面白くまとめ、手軽な読み物といった形には仕上がってはいる。
ただ、実際に、当時商社にいた者としては、物語の全体がなんとなくウソっぽく見えてしまう。ノンフィクション小説風を装ってあるが、何処と無く、荒唐無稽さが気になって仕方がなかった。
（90年2月発行）