シリウスの道 藤原伊織 文芸春秋
この小説は、時々買う週刊誌に連載されていた記憶があるが、連載時には一回も読んだことはなかった。（元々、週刊誌や新聞の連載小説は読まない主義なのだが）単行本を書店で手にしてちょっと面白そうなので買ってみたのだが、連載時に読まなくて良かったと思った。
と、いうのもエンターテイメント小説として中々面白く、ストーリーが二重、三重構造になっているところや、企業小説として、あるいは人間の成長ドラマとして、何事かが成就されていくというちょっとした感動物語（プロジェクトＸのパターンだが）などが、小説の先を読みたくさせる魅力を持っているだけに、週一回の連載では多分、フラストレーションが溜まったと思うからだ。勿論、一気に読み終えてしまった。
舞台はあの華やかな広告業界。主人公は美人部長の下で副部長を務める。彼は、銀行から転職してきた若者、コネでこの広告社に入社した政治家の息子という部下とともに、大口得意先から依頼された新規事業のキャンペーン企画のプレゼンテーションに取組むーーーーーというのが、メーンのストーリーだ。
このプロジェクトに絡むさまざまなスタッフ一人一人が、中々魅力的に登場する。また、このメーンストーリにからんで、主人公の幼い日々の思い出と、それに絡むストーリーが又、中々良い。
政治家のバカ息子のように社内からは白い目でみられていた部下もストーリーとともに成長していくところなども中々リアルである。
作者自身、広告業界の出身とのことであるから、ある程度現実の裏付けもあるというところが、物語全体に厚みを加えているのだろう。
テレビドラマ化、あるいは映画化されれば（既にされているのか寡聞にして知らないが）割と大衆受けはしそうなストーリーだと思う。
（05年6月発行）