大誘拐　　　　　　　　天藤真　　　　　　　創元社　　　　　　

刑務所で知り合った若者三人が、出所後仕組んだ犯罪は誘拐だった。紀伊の大山林主の82歳になる当主であるおばあちゃんを誘拐して5千万円の身代金を手にしようというものだ。

漸く千載一遇のチャンスに恵まれ三人はこのおばあちゃんを誘拐することに成功するのだが、綿密に計画したはずのこの誘拐も実は穴だらけの代物だった。

しかも三人の計画での身代金が5千万円だと聞いて、このしっかり者のおばあちゃんが怒り出す。

自分はそんなに安くない、身代金は100億円をビタ一文まけられないと言い出すのだ。さて、この途方もない身代金を一体どうやって手に入れ、人質を安全に返し、しかもこの誘拐を完全犯罪で終わらせるにはどうしたらよいか。

成り行きから、犯人達に知恵を授けるのは、このおばあちゃんだ。おばあちゃんが、隠れ家の手配をし、県警本部とのやり取り、100億円の調達方法などいっさいがっさいを犯人たちに指南していく。

犯人と被害者の立場が逆転、世界中に知れ渡ったこの莫大な身代金誘拐事件は、身代金の受け渡し現場なども、犯人側の要求によってテレビ・ラジオ中継がされることとなる。

奇想天外な設定、そしてトリックの連続によって、読者はこのミステリーに引き込まれるだろう。

このとんでもない設定が、82歳のおばあちゃんという主人公の愛らしさと、三人の犯人たちの間抜けぶりなどによって上質のユーモアミステリーになっている。

天藤真がこの作品を書いたのは1978年。映画化もされた作品だが、30年後の今読んでも全く古さを感じない。世紀の傑作ミステリーとも言われる所以だ。