小袖日記　　　　　柴田よしき　　　　文芸春秋　　　　　　　　　　　

現代の女性がタイムスリップして平安時代の女性と入れ替わってしまうというSF設定が中々絶妙だ。

雷に打たれて気を失い目覚めてみると、まわりは平安時代の美人顔といわれるおかめ顔ばかり、彼女と体が入れ替わってしまったのは源氏物語を執筆中の紫式部の下で働いている小袖という女性だった。

世界最古の長編ロマン小説である源氏物語の人気は現代でも高いが、この物語中にはちょっと納得できないところもある。夕顔は何故あんなに急激に体調を壊し姫を産んだ直後に死んでしまったのか、末摘花はブスだということになっているけれど、光源氏は何故この女性に惹かれたのか等々、紫式部へ源氏物語の材料調査に当る小袖は、そのモデルとなった女性たちに会うことによって、源氏物語に書かれた物語の裏話を知っていくことになる。

よくあるタイムスリップ物のSFといえば確かにそうだし、もうすこしSFなら整合性をつめても良さそうに思えるツッコミ所も多い作品だが、何せ現代女性が紫式部のおつきの女官になって源氏物語の謎を解く、という設定が抜群なので、ささいな点で辻褄があわないことなど気にならない。

中々都合のよい設定だし、一ひねりも二ひねりもある物語展開、この作家の物を読んだのは始めてだが、中々軽妙な書き手である。

SFタイムスリップ物の定型としての、主人公が元の世界へ戻れるかどうかという盛り上げもあるし、エピローグに至るまで楽しませてくれる。