国のない男　　　カート・ヴォネガット　　　　　日本放送出版協会　　　　

ヴェネガットは現代アメリカを代表する作家の一人であり、その作品は小説、戯曲、エッセーと多岐にわたるが、人類に対する絶望と皮肉と愛情をユーモラスにまたシニカルに描き人気も高い作家だ。

その彼は今年4月、84歳で亡くなったがこのエッセーは彼が82歳の時に書いた遺作である。

自らを人間主義者であるというヴォネガットは人間を愛し、その人間を育んでくれる地球を愛するが故に、この地球を化石燃料と原子力の浪費によって破滅に導き、他人を愛することよりも他人と競争して金儲けをすることに狂奔する人類に怒り、そういう風潮に狂う現在のアメリカの大統領であるブッシュを徹底的に批判する。

その文章はヴォネガットらしい、逆説とユーモアに溢れていて思わず引き込まれてしまう。

それこそ、現代人は総なめで批判しまくる彼の理想の人物は、リンカーンでありマーク・トゥエインであるとなると、ちょっと現実離れしすぎているようにも思われるかもしれないが、読んでいくうちにこの82歳の老作家の嘆き、絶望の真の意味がひしひしと伝わってくるだろう。しかも読後感は、何だか不思議に地球や人類の未来に希望が湧いてくるから不思議だ。

本書は徹底的にアメリカ批判をしている書だが、これがアメリカでベストセラーになったというのだから、そういう意味ではアメリカという国も大したものだと思わないではない。

（07年7月発行）