イタリアでうっかりプロ野球選手になっちゃいました    　八木虎造　    　小学館　　　

サッカーが今のような人気スポーツになる以前、日本の男の子たちが野原で夢中になっていたのは野球だった。

学生時代、社会人になってからもチームには入らないまでも、キャッチボールやバットの素振り、そして川原での草野球などという形で、野球を楽しんだ人は多いのではないだろうか。

それほどポピュラーな野球でも、アメリカとアジアの一部ぐらいでしかやる人がいないスポーツだなどと聞いて、なんとなくそんなものなのかと納得もしていたのだが。

幼い頃から野球に親しんでいたカメラマンである著者は、イタリアのシシリア島で暮らしている時、無性に野球がしたくなり、シシリアにあるという野球クラブを訪れ、「野球をやりたい！」と直談判に及んだというが、なるほどそういう気持ちになるのも分からないではない。

幸い、そのクラブで野球が出来るようになった著者だったのだが、何とこのチーム、イタリアのプロ野球チームしかもセリエAのチームだったのだ。

勿論、イタリアのプロチームといっても選手は、皆他に職業をもっている野球好きたちであったから、著者は異国の地イタリアでそれこそ草野球と同じような雰囲気のプロ野球を堪能することができたのだ。

毎試合、ラグビーのような点数になってしまう試合は、フォアボールも一試合20は出るし、乱闘はつき物、時にはチームメンバーが9人あつまらないといった正に日本の町内草野球のようなものであった。

しかし、著者はこの野球を通じてシシリーの地に溶け込み、多くの友人や思い出を作ることになる。

本書はそんな著者のシシリア野球体験を実に軽妙に著したものだ。草野球から離れてしまっている多くのかつての野球少年たちに、もう一度野球をやってみようかと思わせるに十分な面白さをもっている。

(07年11月発行)