5万年前　　　　　　　ニコラス・ウェイド　　　 イースト･プレス　　　

今から500万年前、類人猿系統はチンパンジー系統とヒト系統に分離した。しかし現在地上に生息するヒト属は我々現生人類ただ一種のみである。その現生人類が出現したのは20万年前といわれるが、更に下って5万年前にアフリカに住んでいた約150人ほどの集団がアフリカを出て、様々な経路を経て現在のように地球の隅々に暮らす唯一のヒト族となったのだ。

そのような人類の歴史は、ヒトゲノムが解析されて以降飛躍的に明らかになってきた。

全ての地球上の男性はこの出アフリカを果たした集団の中のたった一人の子孫であり、女性たちの祖先を辿れば、わずか7人の女性始祖に至るという。

このような、にわかには信じがたい、壮大な我々人類のドラマをゲノム研究の知見をはじめ、考古学、歴史学、古人類学、生物学、言語学などの知見をおりまぜて大胆に説いたのが本書である。

著者のウェイドは科学ライターであり、その筆致は読みやすく一般向けに出来ている。本書は、ヒトという主テーマを置きながらも、その中では生物進化、生命史といった地球創成期からの歴史にも触れ、又、これらの知見が得られるまでにどのような理論が打ち立てられ、又、論争が戦わされたのかにも触れていくから、中々スリリングでもある。

人類学を語る上で、最近タブー視されている人種の問題にも大胆に切り込み、人種間の様々な相違点が進化論の必然として生じていると説く点などは、これからも物議をかもすだろうが、大いに興味深い指摘でもある。

参考図表などが極めて限られている点はやや惜しまれるし、ところどころに挿入されている挿絵が内容とは余り関連性を感じさせず不要に思われるところも難点かもしれないが。

（07年9月発行）