賭ける魂　　　　　　植島啓司　　　　　　　　講談社　　　　　　　　

今年還暦を迎えた著者は東大出身の宗教学者という肩書きをもつがスポーツ紙に競馬予想を連載したこともありギャンブルにまつわるコラムやエッセーを雑誌などに寄稿することの多いギャンブラーとしても知られている人だという。

本書はそんな著者が自らの人生と、競馬やカジノ、麻雀などを通してギャンブルそして賭けるという行為をする唯一の生物である人間について書いた気ままなエッセー風読み物である。

勿論、著者なりのギャンブル必勝法の記述もあるが、その大半はギャンブルで勝った話よりもむしろ、負けた話が主であり、そうやって負け続けても、なおかつたった一度の大勝に賭けていくギャンブラーの思いを描くことに費やされている。

著者にとって賭けは、人生と同じようなものであるという。「ところで、トータルでギャンブルの収支はどうですか」と聞かれたら、「それでは、あなたの人生はトータルで勝ちですか、負けですか」と問い返すことにしているというが、こういう風に人生を考えられるギャンブラーは、享楽主義者というよりは寧ろ虚無主義者に近いような気がするしなんだかちょっと羨ましい人生観だとも思えてくる。

著者とは同い年、同じようにギャンブル、特に競馬とカジノが大好きなタカさんにとって本書に書かれている著者の競馬、あるいはカジノにおける体験談には、大いに頷き、懐かしい自分の思い出を呼び覚まし共感を覚える部分が多かった。

学者という身分ではなくても、ある意味では人生の大半において本職を持ちながらもギャンブルにのめり込んできた人は実は多いのではないかと思う。そういう意味でいえば本書は普通の一ギャンブラーの気ままなエッセーという意味で、タカさんを含めご同輩には面白い読物と言えるのではないだろうか。逆に、本書の内容は章ごとに取り上げられるテーマがばらばらなところがあって、同じようなギャンブル体験をしたことがない読者にとっては、余り興味をもてないかもしれないが。