オイラーの贈物　　　 　　　吉田武　　　　　ちくま学芸文庫　　　　　

円周率πという数字は一体なにものなのだろうか。実に得体のしれない不思議な数字だ。そもそもπはなぜあのような形の無理数なのだろうか、いやπのような無理数とはそもそも一体何物なのだろうか。この数字はまことに神秘的な数字だ。

同じく自然対数の底　e　もπ同様になんとも不思議な無理数であり神秘そのものの数字だ。

　　　　　　　eⁱπ + 1 = 0

という数学的にもっとも美しいといわれる公式が成り立っていることは、まさに神秘という以外の言葉がない。

この等式を発見したのは18世紀の大数学者オイラーである。

オイラーはこのオイラーの等式で有名なほか、電気工学や物理学における微分方程式解析で大きな足跡を残しているが、本書はそのオイラー自身が説く複素数の意味を文系の学生にも分からせることを目的に書かれた「教科書」ともいえる解説書だ。

オイラーの公式自身の理解につなげるために、なんとご丁寧に数学の基礎について一から徹底して解説し、徐々にオイラーの公式理解へと進んで行くというものだから、当然ながら本書を読む際には紙と鉛筆をもって自身で数学の問題を解きつつ読み進める必要がある。

おそらく高校時代であったら、数日で最後のページまで読み進めることも可能であったかもしれないが、数学から離れて数十年経ったとなると、行きつ戻りつしながら読了までには1年近い日数を要した。

そして最後に来た時には始めのところをもう忘れてしまっているような始末だったから、やはりこの年になってオイラーの等式を真に理解することは諦めねばならないのかとも思う。