ばす　　　　　　　　山本甲士　　　　　　　　　双葉社　　　　　　

この物語のタイトルとなっている「ばす」とはブラックバスのことである。ブラックバスやブルーギルといわれる魚は、引きが強いこともあってスポーツフィッシングを楽しむ人々に人気の魚種である。

しかし、一方、旺盛な食欲にあふれるこの魚は、日本の湖沼に古くから住んでいる在来種のたまごや稚魚、時には成魚までも食べてしまっているために、絶滅に瀕する日本古来の在来種が急激に増えてきている。

地方によっては、バスなどの外来種を駆除して日本の古来種を守ろうという運動も盛んだ。又、バス釣り愛好家たちが、「キャッチアンドリリース」といって一旦釣った魚を再び放流する、あるいは他の湖沼に放つといった行為には、監視体制を組んで阻止するという過激な行動に出る団体もある。

一方、バス釣り愛好家たちは、既に80年も前から日本に持ってこられたというバスを目の仇にする方がよほど自然破壊であり、動物愛護の精神にも反すると主張する。

さあ、そこに動物愛護の西洋倫理観を持ち込む外国人作家、自然保護を旗印に「在来種を守れ」と叫ぶマスコミといった連中が複雑に絡み合うのだから、バスを中心にした狂想曲は実ににぎやかだ。

この小説はそういったバスを巡る人々のてんやわんやをユーモラスに描いたもので、かなりブラックの入ったユーモア小説ということができる。

（08年9月発行）