メアリー･スチュアート　　　アレクサンドル・デュマ　　　作品社　　　

文豪デュマといえば「三銃士」「岩窟王」「鉄仮面」といったいまも世界中で読まれている小説の作者だが、自身も1830年のフランス7月革命の際には革命軍に身を投じ、国王軍の弾薬庫から大量の弾薬を接収するなどの冒険的大活躍をした人物でもある。

シラク大統領は2002年のデュマ生誕200年の式典の際に「世界でもっとも読まれているフランス人作家である」と彼の業績を称えているように、世界が認める文豪と言ってよいだろう。

この作品はそのデュマの書記作品の一つだが、これだけ著名な文豪の作品であるにもかかわらず本書が奔放初訳になるというのは、ちょっと意外にも思える。

主人公はスコットランド女王メアリー・スチュアートだが、彼女はエリザベス一世の異母妹に当たる女性だが、名君として名高いエリザベスが、王位継承の正当性に勝るメアリー・スチュアートに対して対抗心、嫉妬心を燃やし、名君の犯した生涯の汚点となって今も語りつがれるように、エリザベスによって断頭台の露となって果てた悲劇の女王でもある。

16世紀のフランス、スコットランド、イングランドを舞台として激しい権力争いの渦の中で、気高く誠実に生きたカソリックの女性として、また激しい恋と失望の中で翻弄されつつも自分の気持ちに正直に生きた女性として描かれている。

軟禁生活を強いられた古城から白馬の騎士に救い出される女王、そして19年にも及ぶイングランドでの幽閉生活の後、姉であるエリザベスの命によって断頭台に消える彼女といった場面は、デュマらしい迫真の描写で描かれている。

この物語が、フィクションではなく実話であることも、この作品が書かれてから既に200年近くが経っているが、今も我々に息もつかせずに読ませるこの文豪の筆力にはあらためて驚嘆させられる。