日本を滅ぼす「自分バカ」　　　　勢古浩爾　　　　PHP新書　　　　　

著者が本書で主張するような現代日本の風潮に対する嘆きに賛同する人は多いとは思う。

「自分探し」だとか「自分らしさ」という何だか鳥肌のたちそうなことばがいやに正当性を得て世の中を支配する。その延長が「自分を大切に」であり著者のいうところの「自分バカ」であるが、その為に、クレーマーもモンスターペアレンツも、とんでもない主張や行動をしても、そこには「自分を（あるいは自分の身内を）を第一に考えて何が悪い！」と、とんでもない言いがかりを悪いことだとも思わないし、「常に自分が正しい」言い続けるという現代人の醜悪さが顕在化する。

考えてみると著者の嘆くこういった「自分バカ」が決して極一部の人間という訳ではなく、ある意味では著者や著者の賛同者たちですら時には、「今こうやって自分が主張している自分バカ批判は、絶対に正しい！」といった自己主張をしているという同工異曲ではないかという気がしないではない。要するに「自分バカ」は、既に日本中に蔓延しているということなのだろうか。

新書一冊が丸々「自分バカ」批判という訳でもなく、著者のかなり幅広い知識、あるいは読書から得た知識などを様々に紹介しつつ、かなり洒落た社会批判（風刺？）を繰り広げるといった類の一冊でもある。

面白いといえば面白い。ただ、やはりこれだけ批判というか嘆き節を聞かせるからには、少しでもよいから解決策を提示、あるいは暗示して欲しかったけれど、どうもその点には著者の興味はないようだ。

そうなると、やっぱり本書はある意味では著者自身も「自分バカ」の一人であり、その自分バカとしての主張を述べた一冊ということになってしまうが−−−−。

著者は自分のことは多分「自分バカの一人」とは思ってはいないだろう。まあ、そうでなければ本書のように辛らつ且賛同者を得易い社会批評は書けないだろうから。