鷺と雪　　　　　　北村薫　　　　　　文芸春秋　　　　　　　　　　

北村薫は09年に本作で直木賞を受賞するまで既に6度直木賞候補として名前が挙げられている。

既にベテランミステリー作家として広く認知されており作品も常に注目を浴びファンも多い作家という訳だ。

しかし本作を読んでみて何故今までに6度も候補に選ばれながら受賞を逸してきたのかがちょっと理解できるような気がした。

昭和の初期、2.26事件が起きる頃の時代背景を選び、主人公は子爵家のお嬢様、女子学習院に通っていて級友たちも皆華族のお嬢様である。父は英国通の紳士、上品で優しい兄がいて大切に育てられている。

この主人公がベッキーさんという女性運転手と二人で身の回りで起きるささやかな事件の謎を追っていくというミステリーシリーズの内の3篇が本書だ。

本書に納められた3篇の内の一つ「鷺と雪」が直木賞を受賞したという訳だが、シリーズ全体を読み通せば印象は違うのかもしれないが、「鷺と雪」を含めて、それぞれの一編、一編がとりたてて面白いというほどのものではないように思った。

時代設定と人物設定が意表をついているということをどう評価すべきなのだろうか、華族のお嬢様の日常的な出来事という設定にも余り馴染めないような気がしてならなかっただけに、どうもストーリー展開に怪奇小説なのか、本格ミステリーなのかといった点や多くの点で座りの悪さを感じてしまった。

受賞作は2.26事件を暗示する事件にこのお嬢さんの運命も翻弄されていくであろうという衝撃的なプロットがあってその点では確かに既にミステリー小説の大家とも見られている作家の底力は感じたが。

本作品が直木賞に相応しくないとは思わないが、別にこの作品が直木賞でなくてもよかったような気がしないでもない。

直木賞は、ある程度実績を積んだ作家に対しては回りもちで受賞機会が巡ってくるといった仕組みのようなものがあるのだろうか。