死神を葬れ　　　　　　ジョシュ・バゼル　　　　　新潮文庫　　　　

本書がこの作家のデビュー作というのにたちまち全米ベストセラーにランクイン、ディカプリオ主演での映画化も決まっているという。

「メディカルミステリー」という新しいジャンル訳もされている一風変わったストーリー展開やプロットは、「ER」などのメディカルドラマと、「リーサルウェポン」調のアクション物、「ゴッドファーザー」調のサスペンスなどの要素を全てごちゃ混ぜにしたようななんとも斬新なアメリカのペーパーバック的小説だ。（多分に「スーパーマン」の劇画的要素もある）

ニューヨークの総合病院で殺人的な勤務をこなす研修医ブラウンが主人公。

彼の早朝出勤時から物語ははじまる。出勤途次強盗に襲われたブラウンは難なくこの強盗を病院送りにノシてしまう。（出だしからスーパーマン的に強い医者のアクションシーンが描かれ、なんだか劇画調な小説に戸惑うが）

彼が病院に出勤してみるとそこはまさに戦場のような混乱と混沌の中にあるがこの部分も現在のアメリカの医療現場の酷さ、混乱、矛盾を描いていて面白い。

主人公はこの患者の一人に末期がんを告知しもはや助かる見込みはないことを告げようとするのだが、その患者から「ベアクローじゃないか」と声をかけられる。主人公は会ってはいけない人物と会ってしまったのだ。

というのも実は主人公ブラウンはかつてベアクローと呼ばれるマフィアの殺し屋だったのだ。その過去を消して彼は今は医者としてかつて自らが犯した罪を償おうとしているのだ。

彼が殺し屋になった理由は、自分を育ててくれた祖父母を殺した犯人達に復讐するためにマフィアの一家に接近、彼等が犯人を教えてくれたことで復讐を遂げたのだが、この殺人があまりに見事であったことからマフィアに見込まれてしまい殺し屋としてマフィアの手先になって数々の殺人を実行したという過去を持つ。

しかし、ブラウンはある時にこの一家から逆に命を狙われることになりFBIの証人保護プログラムの下、名前を代え祖父と同じ医者の道を歩んでいたのだ。

ストーリーは主人公がマフィアの一員であり彼の過去を知るこの末期がん患者と出会うことによってマフィアの秘密を握る男としてマフィア組織から命を狙われるようになってしまう現在の物語と、主人公が殺し屋となった過去、そして祖父母がアウシュビッツの囚人となった過去の物語が巧みに織りなされていく中々手の込んだ展開をしていく。

医療現場、暴力シーンでの吐き気をもよおすような描写、スーパーマンでもかなわないと思わせるような主人公の超人的アクション等々、盛り込み過ぎではないかとおもうほどの物語展開、どんでん返しがこれでもかこれでもかと続くとなれば確かにハリウッドが映画化したくなるような内容に溢れていると言ってもよい。エンターテイメント小説としては実に面白い。

作家自身が大学で創作を学んだ後、医学部に行き映画脚本家、ニューヨーク検死局などを経て現在カリフォルニア大学でレジデント研修医を勤めているというだけあって描写が中々リアルなところも人気の秘密かもしれない。

作者は病院勤務を続けながら現在、この作品シリーズ第二作を執筆中だとか。第二作もちょっと楽しみである。