ナイン　　　　　　川上健一　　　　　　　PHP　　　　　　　　　　　

ユーモアスポーツ小説とでもいうべき作品といってよいだろう。

「勝負は二の次にして野球を楽しむこと」をチーム方針としている「ジンルイズ」というい草野球チームに集まった9人のユニークなメンバーを主人公とした物語だ。

チームに集まったのは一人一人が中々ユニークなのだが、それでいてこういった人物は実際にいそうな気がしてくるから、この野球チームも案外現実にあるかもしれないとも思えてくる。

ピッチャーは紅一点の女性志保、セカンドは81歳という超高齢選手でチーム結成以来、まだ一度もヒットを打ったことがない。ライトには49歳になった元プロ野球の首位打者が控えている。彼は今も現役に復帰することを目指している―――。

彼等が全日本野球選手権という公式トーナメントに挑むことになって−−−という典型的なスポーツ小説だが、9人の固定メンバー全員が「野球をしたい！」というそれぞれの情熱をもっており、その9つの情熱が結実して奇跡的な連勝を続けていく―――というこの手のスポーツ小説の常道を更に一ひねり二ひねりしたストーリーは軽いエンターテイメントとして楽しく読める。

あまりに奇想天外なところが多すぎて、なんだか子供向けのマンガを読んでいるようなところがあるから、この手の小説はおふざけが多くて嫌いという人も案外多いかもしれない。

気楽な読み物を欲している人になら、この作家はスポーツ小説では中々の有名人らしいだけに、十分その辺りのツボを心得ている様子で楽しませてくれる。

ポイントはしっかりと押さえた娯楽小説としてならお勧めだと思う。