半島へふたたび　　　　　　蓮池薫　　　　　　　新潮社　　　　　　

北朝鮮拉致被害者として24年間、自由を奪われ過酷な環境の中で暮らさざるを得なかった著者は、02年に帰還後柏崎市役所臨時職員などを経て05年には翻訳家への道を歩みはじめた。

本書はその蓮池さんの随筆集である。

24年の日本社会との隔絶による空白は家族を抱えた彼の社会復帰にも大きくハンディとして立ちはだかっていた。そんな中、著者は持ち前の楽天的な性格と、北での経験によって否が応でも鍛えられた不屈の精神によって韓国語の翻訳者としての道を歩みはじめたのだ。

本書は、未だ帰国を果たせない横田めぐみさんをはじめとする拉致被害者にとって著者の活躍はきっとよい道標になることだろう。

本書の前半部は出版社の企画で8日間韓国を訪問した時の見聞記を中心とするエッセー集だが、日本と韓国の違いだけではなく朝鮮半島の北と南の違いについても語ることができるという著者の視点からの見聞記だけに着眼点が面白く又、著者のやさしい性格がにじみ出るような柔らかな文書で何だかほのぼのとした気分にもなれる。もちろん、ところどころに挟まれている北朝鮮での生活を語る部分では緊張感が張りつめてはいるが。

後半部分は、蓮池さんが翻訳家として出発するまでの経験、あるいは韓国人作家たちとの交流などを中心にして日韓そして北朝鮮での文化や歴史、習慣などを巧みに描くエッセーだが、この部分も蓮池さんの北朝鮮での苦労をおもい浮かべながら読むと、楽しさと同時に緊張感も漂ってくる。