証言「北」ビジネス裏外交　　　　河信基　　　　 　講談社　　　　　　　

隣国でありながら北朝鮮について我々はほとんど知らない。

彼らが絶対秘密主義をとっていることが一番の原因だけれども、それでも秘密主義をとる他の国ならば、多少は洩れてくるような情報ですらごく限られていることがこの国の実態を益々謎に満ちたものにしている。

朝鮮総連をはじめとする北朝鮮と密接な関係にある在日団体やその構成員たちも情報を漏らそうとはしないが、中には著者のような北朝鮮系団体に所属していた経歴をもち今でもそういった情報に接する機会をもっている人物による情報はそういう意味では貴重だ。

但し、そういった情報には得てしてかなりバイアスがかかっており（しかも、かなり親北朝鮮よりのものと、反北朝鮮よりのものといった極端なバイアスがかかったものが多い）、あるいは北朝鮮情報やその分析を唯一の収入源としているために、他の人が知らないのをよいことに虚報、捏造の類の情報を発するいわゆる「はったり屋」も多く存在するだけに北朝鮮物は用心が必要だ。

本書の著者はどうなのだろうかという思いが最初から最後までぬぐえなかった。

非公式な外交折衝をとらざるを得ない二国間関係だけに、日朝関係に関わった多くの政治家や経済人にかかわる話も果たしてどこまで真実なのかと迷わざるを得ないからだ。

但し、著者のいうような「裏」外交があったであろうと類推はつくのだが--------。

拉致問題が北朝鮮にとって極めて都合が悪い問題であるようで、かなり北朝鮮寄りのバイアスがあるらしい著者は、この問題についてどうも歯切れが良くないことも（「もう済んだことだ」というニュアンスが随所ににじむ）、本書の信憑性にどうしても疑念を抱いてしまう一因のようにも思うのだが。