白い魔術師　　　　　　阿刀田高　　　　　　　　　集英社　　　　　　

阿刀田高自選による短編10篇がおさめられているが、本書のテーマはペダンティズムだ。

阿刀田高といえばコーランや聖書、ガリバー旅行記からシェークスピアまでの紹介した作品でも知られているように極めて広い知識の持主だが、この10篇の短編もそれぞれ作者ならではの衒学趣味からなる作品集だ。

西洋の不老不死伝説を題材にして我々一般の人間も実は不老不死の生命をもっていることを暗示する「サン・ジェルマン伯爵考」、絶対に当たらないといわれるほど低い確率でしかない宝くじの一等当選も、逆に考えれば必ず数百万枚に一枚は当選があるという確率のパラドックスを題材にした「幸福通信」、アレキサンドリアにあったという当時世界一の蔵書量を誇ったプトレマイオス朝時代の図書館を題材にした「あやかしの声」など、どれ著者ならではの広い衒学的知識を縦横無尽に駆使した巧みな筆の運びは読者を十分たのしませてくれる。