ユルスナールの靴　　　　　　須賀敦子　　　　　　白水社　　　

著者は98年に70歳で亡くなったが晩年は随筆家としてそのやわらかな文章が特に女性達の間で好まれた人だという。

1929年生まれ、戦争中に多感な少女時代をすごしたこと、当時からミッション系スクールで教育を受けキリスト教に入信し、フランス留学から徐々にイタリアに引かれ長くイタリアで暮らすといったこの年代の女性としてはかなり異質な人生を送られた方であることも彼女の感受性や文章に大きな影響を与えたのだろう。

本書はそういった多感な女性であった著者自身の生涯と、フランス人作家、マルグリット・ユルスナールの生涯とを交叉させ綴られた自伝的随筆という形をとっているが、その流れるような文章、芯は通っているがあくまでも感受性に溢れた二人の女性の人生が織りなす美しくも物悲しいメロディーを醸し出していて美しい。

彼女の時代の女性達の人生にとって戦争がどのような影響を与えたのかを、このやわらかな文章が却って生々しく浮き彫りにしているように思われた。

特に中年以上の女性達はかなり共感を覚えるのではないだろうか。