歴史と人間の再発見　　　　　上田正昭　　　　　　藤原書店　　　　　　

著者は今年83歳になる日本古代史研究家である。

柳田邦夫、折口信夫等の薫陶を受けて古代史研究に進んだということだから学会における重鎮ということになるのだろう。

本書は著者の幅広い著作、講演活動などから抜粋した各種の論考が集められたものであり特に一つのテーマに絞られている訳ではないけれども、日本古代史を朝鮮および南方文化との交流を重視することで捉えようという古代史観の提唱者らしく、この関連の論考がかなり多い。

帰化人という言い方を渡来人と言い換えることを提唱したのも著者であるようで、この言葉の違いが実は日本の古代史観を大きく変えるポイントであったことがよくわかる。

松本清張、司馬遼太郎、江上波夫等との交流、そして論争などにも言及、あるいは著者が長年取組んできた解放運動の回顧、あるいは問題点の指摘など、いささか話題が広がりすぎるきらいはあるが、80歳を過ぎてなおリベラルな視点を失わない研究者の声が聞こえるような一冊といえることは間違いない。