じみへん倫理教室　　　　　南部ヤスヒロ　　　　　小学館　　　　　　

中崎タツヤの人気マンガ「じみへん」の連載はもう20年も続いているのだとか。

初期の頃この妙に魅力的なマンガに取り付かれたこともあったが随分と久しく読んでいなかった。

本書は福井県で「最も授業を受けたい教師」に選ばれたという著者が、自らの専門科目である｢倫理｣の教材としてこの「じみへん」を使い、その入門書を書いたというなんともユニークな一冊である。

約40篇の「じみへん」作品が再録され、それぞれの作品毎に著者が作品解説の形で一項目ずつ倫理のテーマ解説をしていくというものだ。

「じみへん」自身が社会や人間の不条理を、あるいはシニカルにあるいは脱力気味に描くといったところがあるけれど、著者の教える倫理学がこれまた肩から力を抜いたかのようなところがあるだけにぴったりとマッチするからおかしい。

「おれたちはダメなんだ、どうせ虫けらのように死んでいく」と自暴自棄に陥っている高校生たちに「希望を捨ててはダメだ！」熱血教師があれこれと説得にかかるがどうしても奮い立たない高校生たち。そこで遂に教師は本音を叫ぶ。「世の中、ずるい奴が勝つ！」それを聞いたダメ高校生たちは俄然希望に目覚めて教師を肩車して駆け回る、という「じみへん」マンガは、「キレイごとは通用しない！」という倫理項目として取り上げられ、著者の実授業でこの問題がどう教えられたかが書かれている、といった具合だ。

こういった授業ならなんだか自分も受けてみたくなった。

敢て難点を挙げれば、解説そしてマンガという順番でならべられているが、「じみへん」のマンガが先、解説が後、という順番のほうがより読みやすいように思える点だろうか。