人間はどこまで動物か　　　　日高敏隆　　　　　新潮文庫　　　　　　

昨年(09年)亡くなられた動物行動学者である著者は自らの体験、身の回りの自然の観察などを題材にしつつ専門の生物学、動物行動学関連の話題を情緒あるエッセーとして著した「春の数えかた」などで日本エッセイスト賞を受賞された。

本書もそういったエッセー集だが、そのカバーするところは広く、又同時に我々が日常気付かないような小さな自然の不思議さ（蝉はなぜ鳴くのか、蚊柱はなぜ立つのか、冬のハエたちは何をしているのかといった）といった深く繊細でもある。

又、エッセーの各章順を追って読むと、著者が人生において過ごした40数年間の大学における教育者、研究者として過ごした日々、少年のころに抱いた生物に対する湧き上がるような興味、学生時代に感じた将来に対する漠然たる悩み、といったナイーブな気持ちまでもがしっとりと浮かび上がってくる。

あとがきで著者自身が書いているように、決して本職のエッセイストではないというところにこそ、本来のエッセーはこうあるべきという真髄があるようにも思えた。