漫才ギャング　　　　　　品川ヒロシ　　　　　　リトル・モア　　　　

漫才選手権であるM-1グランプリの予選エントリーは09年には4700組にも上ったという。

今や、若者たちにとってお笑い芸人になることは人気俳優、あるいは超一流プロスポーツ選手になることのような憧れの対象であるらしい。

そんな若者たちを主人公にしたこの小説は、作者自身がお笑いコンビ「品川庄司」の一人であり、自分自身の経験を多分に取り入れていることでも中々興味深いものだ。

コンビを組んでから10年、飛夫と保の組んだ漫才コンビ、ブラックストーンは一向に芽がでない。二人はともに借金も嵩み、遂に保は飛夫にコンビ解散を宣言する。

未だ諦めきれない飛夫はどうにか保を引きとどめようとするが連絡も取れなくなってしまい泥酔して保のアパートに押しかけるがそこで保の借金取りと鉢合わせしてしまい遂には警察の留置場で保護されることに―――。

飛夫は、留置場で渋谷で毎日喧嘩に明け暮れる札付きの不良龍二と同房になるが、龍二の何気ない言葉の端々に飛夫は天才的なツッコミの才能を見てとり漫才コンビの相方にならないかと誘う――――。

漫才師が書いた漫才界のストーリーということもあるから会話体部分には中々軽快なユーモアがあり、漫才修行中の若者たちの生態とか、渋谷にたむろする不良グループや風俗業界の様子等、一般にはなじみの無い世界が垣間見えるから何だか異世界を描いたマンガを読むような感覚で気楽に読める。

小説家が本業という訳ではない作者だが、破綻なく小説としての起承転結もしっかりとつけているし、登場人物群も多数使っていて飽きさせない。

やはり人を笑わせる漫才のネタを日夜考え続けている人だけにこういった才能にも恵まれているのではないだろうか。

(09年9月発行)