デパートへ行こう！　　　　真保祐一　　　　　　講談社　

物語の舞台は、閉店後の老舗デパートだ。

ノー残業デーである土曜日の夜、各階の明かりも消されトイレも施錠されており本来ならば定期的に巡回警備を行う警備員しかいないはずなのに、様々な男女がこの中で蠢き、鉢合わせし、逃げ回り、というドタバタ劇が繰り広げられていく。

登場人物それぞれが皆、負け組みであるがこの世の出来事を切欠にして新たな希望を持つにいたるという軽喜劇的な筋立てがなんとも通俗的な心地よさを漂わせている。

リストラされ、妻に去られ、最愛の娘からも見捨てられ死に場所を求めて幼い頃の夢の世界であったデパートに忍び込んだ中年男、社内不倫相手から捨てられ自暴自棄に陥っているこのデパートに勤める女、彼女は不倫相手に対する当て付けと失われた日々の代償としてこのデパートの宝石を盗もうと店内に潜んでいるのだが、その彼女の上前をはね、宝石と彼女自身を頂こうと狙う宝石売り場の主任、女に惚れている警備の若い男、ヤクザに追われて閉店間際のこのデパートに逃げ込んだ元汚職警官、このデパートを巡る贈収賄事件で父親を逮捕された高校生の男女カップル、大手デパートとの合併を迫られているこの老舗デパートの三代目社長等々、登場人物がまるで真夜中の動物園のような顔ぶれだ。

そういった彼等が深夜のデパートで蠢きあう可笑しさ、ちょっとご都合主義的、マンガ的な鉢合わせ、追いかけっこというところはあるが、軽喜劇、ドタバタ劇であって別に気にならないし、くすり、くすりと結構笑える。