メグル　　　　　　　乾ルカ　　　　　東京創元社　　

大学の学生課で紹介される5つのアルバイトをテーマにした五編の短編から成る一冊だ。

いずれもサスペンスというかホラーというかはたまたコミックともいえる中々ユニークな短編である。

大学学生課奨学係にバイトを探しにきた学生に係りの事務員がバイトを紹介、「あなたは行くべきよ、断らないでね」というところから始まる。

第一篇「ヒカレル」は、寺の本堂で一晩中、遺体の手を握り、添い寝するという高額バイトだ。通夜だというのに寺の住職も、親族もすべて寺を去り本堂の明かりは消された中で主人公の学生は、老婆の遺骸の手を握り続けていなければならない―――ありえない設定にしろこのなんとも気味の悪い、恐怖の一夜を想像しつつ読み進めれば、一体どうなることやらとページをめくるのももどかしくなってくる。

エンターテイメント小説としては中々よく考えられた設定だ。

「アタエル」という一篇は、家族が2週間のフランス旅行に行っている間、猛犬に餌を与えるだけという高額バイトだ。

この犬はかつて子供をかみ殺し、配達員に怪我をさせたという噂もあるが、何しろ危険なので餌投入口から生肉を一日一回投入してくれればよいというので高額につられて引き受けたものの、徐々に主人公にはこの留守家族に対する様々な疑念が湧いてくる。近所の話ではこの家には介護を必要としている老婆がいたはずだが、その姿が見えないこと、依頼主から渡された生肉がどうも得体の知れない動物の肉のようであることなどだ。ひょっとしてこの肉は――――。

ちょっと悪趣味ともいえるホラーを駆り立てながら現代社会への風刺的な要素を絡めるなど中々達者な作家だと思う。