北帰行　　　　　　佐々木譲　　　　　　　　角川書店　

グリシャムの一連の作品「法律事務所」や「ペリカン白書」が面白いのは、闇の勢力と主人公達のスリリングな追いかけっこだ。

何かの事情で追われる身となった主人公が、逃げながらも闇勢力に反撃、そこにFBIなどが絡んできて――それぞれの内部で裏切りや巧妙争いがめまぐるしく起きて――――といった具合なのだが、この手のある意味ストーリーはどうも日本を舞台にすると妙に荒唐無稽さが目だってしまい何だか安手のスラップスティック劇画調になってしまいがちなものなのだが――――。

この作品はまさにそんなグリシャム流の（ひょっとしたらパクリではないかと思うぐらい）プロットを使い、日本を舞台にした追跡劇でぐいぐいと読ませる珍しいエンターテイメント小説だ。

読み始めて中々止められず、結局明け方近くまでかけて読了してしまった。

ストーリーにかなり無理がある部分とか特にラストの部分はもう少し工夫が欲しかった――――といった不満もあるが、なにしろ一気に読ませる「面白さ」は日本人作家放れしている。(逆に言うとアメリカのエンターテイメント小説ならば、むしろありふれたパターンともいえるが)

ロシア関係の旅行者専門の旅行者を一人で営む関口が成田で迎えたのは、ターニャという女性だ。関口は知らなかったのだが、実はターニャは妹殺したヤクザのボスに復讐するために、ロシアン・マフィアが日本に送り込んだ殺し屋だった。

何も知らずにターニャをヤクザの事務所に案内した関口は、ターニャが単身事務所に乗り込みボスとその手下を撃つ事件に突然巻き込まれたてしまい、行きがかり上、止む無くターニャの日本脱出を手伝わされる破目に。

しかし、ターニャと関口は事件を追う警察、ボスを殺されたその復讐に動くヤクザ組織に追われる身となり日本中を必死に逃げ回る立場に陥る。

この追跡劇が単純な追いかけっこではない。スーパー殺し屋ともいえるターニャはただ追われているばかりではない、次々と追跡者たちに反撃、しかしそのターニャの動きが彼女を送り込んだ組織にとっても不都合なものになって来るにつれて、二人はついには日本にもその勢力を伸ばすロシアン・マフィアにとっても邪魔な存在となってくる。

二人の逃走劇とロシアンマフィア対日本マフィアの全面戦争、ヤクザ同士の裏切りによる事件の意外な展開へと、益々複雑な展開となってくる。そこにさらに警視庁組織暴力犯罪対策部の刑事たちがからんできてと―――追いつ追われつ、騙し騙され、の追いかけっこは日本の小説らしからぬ大胆な展開を見せる。

舞台も東京、新潟、北海道と急展開、二人を追いかける射殺された組長の弟分の藤倉という優しい風貌を持ちながらも常に冷静で頭が切れ、しかも変質的な男が実に執拗に追いかけてくる迫力も中々のものだ。

いや中々面白い一冊だった。