江戸の卵は1個400円　　　　　丸田勲　　　　　光文社　

100万人の人が住み当時世界一の大都市であった江戸とはどんなところだったのだろう。そして人々はどんな暮らしをしていたのだろうか。

歴史的事件などについては、多くの資料などによってかなりの部分を知ることができるし、研究も進んでいるものの、その時代の一般庶民の暮らしがどうであったのかといったことがらになると、池波章太郎の時代小説や、数々の時代劇、落語や歌舞伎といったもので垣間見ることはできてもどうも想像の範囲はしぼられる。

本書は、江戸時代もっとも町人文化が花開きいわゆる「天下泰平」であった時期を中心に当時の「物価」を梃子にして庶民の暮らしを探ってみようという極めて面白い歴史考証物だ。

江戸時代、貨幣には金・銀・銭の3種類があった。言ってみれば円・ドル・ユーロが同時に使われていたようなものなのだという。（それ故に両替商が繁盛していたということを本書で初めて知って目から鱗のような気がした）

この三貨幣の価値を現代の物価に引き当てて１文=20円、銀1匁＝2000円、金1両＝128000円という尺度を立てての江戸の諸物価の話は、どんな江戸薀蓄物よりも直に江戸の人々の暮らしを身近に感じさせてくれる。

吉原の花魁との一夜は一体幾らかかったか、あるいは夜鷹ならいくらだったか―――大工の日当は幾らで、駕籠に乗るのは現代のタクシーとどれ位違うのか―――といった物価の話は、江戸マニアとしての造詣の深い著者らしく、まあよくここまで調べたものだと感心させられる。

長屋の家賃は極めて安かったが大家は、長屋の糞尿を売りさばく権利を持っておりこれで収入を得ていたこととか、江戸時代には男も女もかなり酒を飲んでおり、男なら毎日3-4合は飲んでいてその値段も安かったことなど知るにつけもっともっとこの時代のことを知りたくなってきた。