武士の娘　　　　　　　杉本鉞子　　　　　　筑摩書房　　

著者杉本鉞子は明治6年に長岡藩の家老の娘として生まれた。幼少時から武士の娘としての教育を受けるとともに、又将来尼になるべく6歳から当時の男児が受けるのと同じように漢籍などの厳しい教育も受けて育った。

父の死後、勘当されていた兄が家督を相続することとなり、その兄の友人であるアメリカ在住の貿易商と13歳で婚約、東京で渡米の為の様々な教育を受けた後米国に亘り二女を生むも、夫に先立たれ一次日本に帰国するが、娘たちの教育の為に再度渡米し本書、「武士の娘」を英語で出版、コロンビア大学で日本文化史を講義するなど通算30年を米国で暮らした。

本書、「武士の娘」は彼女がその体験を下に著した自伝的エッセーである。

幕末から明治にかけての日本における家族制度や、身分制度などの実態、そして教育、あるいは古い体制から新しい体制への移行期における庶民の戸惑いや、嘆きといったものが現代の我々にとってはまるで別世界の話のようにも聞こえながら、なんとなく懐かしい実に興味深い一冊である。

ただ全般を通して人々がつつしみ深く、しかし温和に暮らしていた当時の日本の雰囲気が明るく描かれており、これを読んだアメリカ人はきっと日本に憧れたことだろうと思う。（本書は数ヶ国語に翻訳され世界的なベストセラーとなった）

一番驚かされたのは「内向き」だといわれている現代の若者たちにくらべて、鎖国を開いたばかりの日本のしかも武家というもっとも「古い」体制に属する彼女の実に開明的な国際感覚だ。

彼女がいよいよ渡米するという時に厳格な祖母が彼女に言ったのは「住むところは何処であろうとも、女も男も、武士の生涯には何の変わりもありますまい。御主に対する忠義と御主を守る勇気だけです」と説き、彼女も生涯そのような気概で過ごしたということにはなんともいえない感銘すら覚えた。

男ばかりではなく女性達もこうやって開明期の日本を支えたからこそ日本は短時日にあれほどの発展を遂げたのだということを実感した。