老いのかたち　　　　　　黒井千次　　　　　　　　中央公論　

著者が読売新聞に月一回連載しているエッセー「時のかくれん坊」の05年から09年の54回分が収録されている。

この連載は著者が72歳の年からはじまったものでメーンのテーマは「老い」である。

自らの老いをテーマとしたエッセーとなると概して、老人のぼやき、あるいは逆に、「俺はまだまだ若い！」と気張ったものになりがちだが、本書での「老い」は、「よい歳の取り方を」をテーマとしたものであって、しかも「こうあるべき」だとか「こういう気構えをもて！」といった説教がましいものではなく、著者自身が感じる、あるいは考える自然な「日常の老い」の中からのつぶやきであるだけに、すでに年寄りになっている人たちだけではなく、自分では年寄りだという自覚のない人たちも共感を覚えるものになっているのではないかと思う。

そもそも、老いるということは人間にとっては極めて自然なことなのであって忌むべきものではないし、嫌うべきものでもない。そういう自然体の中で「よい歳をとっていく」とはどういうことなのかについて、本書は色々なインスピレーションを与えてくれる。

確かに、どうせ老いるならば著者の考えるように無理にそれに抗わずに「自然がなすままに老いる」事ができれば―――と思うが。