哀しいドイツ歴史物語　　　　菊池良生　　　　　ちくま文庫　　

本書は2000年に「犬死｣というタイトルで発刊され余り売れなかったこともあり、今回改題のうえ文庫化された一冊とのことである。

内容は確かに三十年戦争期を中心にしたドイツ史の中でいわば「犬死」に近い死に方をし歴史の中に埋もれていった人物9人の物語を紹介するものだが、確かに書店の店頭ならば、「犬死」というタイトルでは手は伸びないが、「哀しいドイツ歴史物語」なら興味を引かれるということは大いにあるだろう。著作のタイトルというものが意外と大事だということを改めて知ったが−−−もっとも最近、やたらと長いタイトルにして商売気たっぷりの新書も多いが、あの手の長タイトルの本には録なものがないという事実もあるけれど−−−。

著者のドイツ史のみならぬ様々な分野への碩学故だろうが、話が日本史やら文学論などあちこちに飛ぶのでちょっとややこしい感じもするが、その碩学ぶりに感心して読み進めるとその内容は実に面白い。

皇帝批判の看板役に仕立てあげられた結果、生け贄にされた太鼓叩き、ライバルの嫉妬心によって罠にかけられた傭兵隊長、忠義を尽くしたにも係わらず暴君の恨みを買った老忠臣、皇帝の何気ない一言に絶望して自殺した建築家等々、いずれも悪代官の配下として「正義のヒーロー」にばったばったと切り殺されていく切られ役たちのように、まさに犬死していった人物のエピソードはたしかに「哀しく」、そして興味深い。

(11年6月発行)