昭和帝国の暗殺政治　　　　ヒュー・バイアス　　　刀水書房　　

「敵国日本」の著者でもあるバイアスは、記者として大正3年から23年間日本に滞在し日本政治の観察者として活躍した人物だ。

日本軍の真珠湾攻撃から70日後に出版されアメリカでベストセラーとなった「敵国日本」とおなじように本書も開戦の翌年1942年にアメリカで出版された。

国力がアメリカの1/10であったといわれる日本がなぜあの無謀な戦争にのめり込んでいったのかは様々に語られ、研究されてもいるが、正直なところ戦後65年も経ってみると（以前もそうであったが）益々理解できないというのが本音である。

その結果、「軍部の狂気」であるとか「指導層がアホばかりだった」「天皇が優柔不断だった」等々どうにか理由として「理解」できるような事柄を挙げてむりやり納得しようとする論説が盛んに行われることになるが−−−それでもさっぱり分からない−−−というのが評者の本音である。

そんな中、滞日23年という部外観察者である外国人による戦争に至る理由付けは、これが正解かどうかは分からないものの、何故か納得が行く部分が多い。

著者は日本が戦争に突き進んだ主な理由として次の3つを挙げている。

自国を特別な使命を持つ万邦無比の国だとする錯覚

軍部が政府を支配するのを許してしまう憲法上の欠陥

侵略への基点となる土地の獲得と、アジアの最大最高に組織された軍事力の保有

特にこの1.2.の具体例として、バイアスは3月事件、10月事件、血盟団、5.15、神兵隊、2.26事件などを挙げ、その経緯、そして裁判経過、民衆やマスコミによる迎合の具体例を詳細に述べることによって、あの「戦争と破滅への狂気の行進」が必然的に起こったのだと主張している。

又、やくざ、ごろつき、といった連中と皇国思想の結びつき、これらのテロ、脅迫に無抵抗であった政治、司法の欠陥、皇国思想と国家社会主義思想の結合による幼稚な神話的思想の蔓延といった当時の特異な社会情勢が語られる。

必ずしもバイアスの分析が全面的に正解という訳ではないだろうが、当時の「理解不能」な日本の政治状況を必死に理解しようとした外国人観察者による分析は、当時のことを全く知らない戦後生まれの我々には何とも分かり易いことは確かだ。

尚、「付編」として後半に置かれている3章は、恐らく日本の敗戦直後に書かれたものではないかと思うが、どこにも執筆時期などについての解説がないのは04年に本書を発刊した際の訳者あるいは編集者の不親切さを感じてしまう。（特に、敗戦後の日本のあり方、将来像を語っている部分は結果的に的外れとなったものも多いが、実に面白いだけに残念だ）