お引越し　　　　　ひこ・田中　　　　　　　講談社　　　　　　　

01年に亡くなった相米慎二監督が93年に当時13歳だった田畑智子主演で映画化した「お引越し」の原作である。

映画は、両親の離婚に戸惑う少女の微妙な心理を京都、そして琵琶湖の美しい風景の映像美の中に浮かび上がらせるという見事な作品でその年の映画賞を総なめしたが、原作を読んでみて映画とはかなり違う作品だと感じた。

映画はこの原作をたたき台にはしているものの映像という武器を活かすことによって子供ではないものの未だ大人ではない、しかも少女ではあってもまだ女ではないというなんとも微妙な成長途上にある主人公が、「離婚」という大人の出来事に巻き込まれることによって徐々に自身が少女から脱皮していく過程をある種幻想的な映像によって表したものだったが、原作は当時増え始めていた離婚に巻き込まれる少女の心理をなんでもない日常の中に浮かび上がらせようという意図から、主人公レン子の日々をレン子の一人称で淡々と描いていて、読み方によっては「何事も起こらない」作品とすらいうことができるが、これはこれで小説というジャンルにおける画期的な作品ということもできよう。

少年、少女の成長物語は、今は大人となっている全ての人々にノスタルジーを感じさせることもあって人気のあるジャンルだがこの作品も、そういった懐かしさを感じさせる秀作といえる。