食の達人たち　　　　野地秩嘉　　　　　　　小学館　

電話による予約注文でしか手に入らない「空也」の最中。なぜなら10個入りの最中を800箱しか作らないし、支店もデパート販売もせず全て手作りしているからだという。客に喜んでもらえる最中を作ろうとするならば、餡を自らの手で練り上げる必要があるし、最中の皮も長年の付き合いのある職人に頼らなければならないが、ともにどうがんばってみても一日800箱が限度でありどれだけ注文が殺到しようともこの数量以上を作って味を落とす訳にはいかないという信念があるからだという。一体、この最中を作っているのはどういう人たちなのか。そして彼らの最中とそして、客に対する考えは一体どのようなものなのか−−−。

その他、一般のふぐ屋のようにふぐの季節ではない夏の間はスッポン料理をするなどということをせず、昔ながらのふぐ屋と同じように、ふぐ一筋にこだわり続け、冬の間しか開かない元ボクサーだというふぐ料理屋の主人は一体何を考え、どのようなこだわりを持っているのか−−−。

このような食に係わる職人、料理人の18人の物語からなる本書は、「食」を題材の基点においてはいるもののある意味では市井の普通の人々の人生の物語でもある。本書は、18人の魅力ある市井の人々の人生ルポルタージュといってもよいかもしれない。

月刊誌の連載をまとめた物だということだがこの続きがあれば読んで見たいとも思った。