数学は世界を変える　　　リリアン･リーバー　　　ソフトバンク　　

本書は第二次大戦中の1942年に一般向けに「数学的な考え方」を教えるという目的で書かれたもので、必ずしも教養レベルが高くはなかった従軍兵士たちにも読んでもらおうと兵士用の野戦糧食キットの中にもいれられていたいわゆる「数学への手引書」ともいうべき一冊だ。

極めて平明な文章とメルヘンチックな絵の組み合わせは、まるで子供用の絵本のようなつくりの本書で述べられているのは、難しい数学の問題やクイズ、解法の類ではない。

数学的な物の考え方とは一体どんなものなのか、そしてその「数学的に物を考える」ということが、人間が人間としてある為に、あるいは人類の平和と進歩のためいかに役立つものなのかを説き、数学を使わずに考えようとする人は何もできない赤ん坊と同じだという主張する。

なかには、「人は生きていく中で、つねに『イエス』か『ノー』かを求めるといった姿勢をもつべきではない」といった人生訓が数学の本質を語る中で導かれたりもする。

今や、科学万脳といわれるようになり、それが行過ぎた形で科学の予測があたかも絶対的真理であるかのように思われているが、その行き着くところの弊害として、あの原発事故があったのではないかという反省が生まれる時、本書で著者が主張する数学（科学）はそもそも「客観的事実ではなく、変換のもとでの不変量」を探求するものなのだという主張は、実にすんなりと理解できる。

「ネズミになるな。神のふりをするな。人間になれ」という本書の結論が数学、あるいは科学を学ぶ基本に置かれるべきだということに、現代の数学（科学）は、立ち返るべきなのかもしれない。