老いと勝負と信仰と　　　　　加藤一二三　　　　ワニブックス　　　

カソリック信者である著者は小学生の時から神武以来の天才といわれ、中学生でプロ棋士となり、数々のタイトルに輝いてきた。これまでの対局数、そして通算負け数ともに歴代一位、70歳を超えた今も現役バリバリの棋士である。

本書は、将棋とカソリック信仰という一見異質な二つを核にして、真摯に生きてきた著者の自らの将棋人生、そして老い、さらには名勝負の思い出録であり、又自らの信仰に関する独白である。

歴代最多の対局数、負け数はそれだけ長い間、将棋に真剣に取組んできた結果であると著者は誇り、「今まで一度たりとも勝負を捨てたことはない」と胸を張る。棋譜をまじえた自選の名勝負回顧は将棋ファンにとっては魅力的なのではないだろうか。

ただ、信仰についての著者の考え方にはどうも違和感があるのは、自分がカソリック信仰をはなからバカにしているからかもしれない。

というのも、著者が幼い時から将棋の世界という限られた狭い世界で生きてきたためだろうか、著者の信仰に対する考え方が余りに無批判、盲目的というか狂信的なものに感じられ、正直言って著者が却って気の毒にさえ思えてならないからだ。

ある宗教に献身的に没入している人はそれはそれで美しいとは思うものの、信者ではない無宗教者から見ると神の為にといって自爆テロを決行してしまう若者と変わりない狂信者の一面がちらついて恐ろしくも感じてしまうからだ。

カソリックのみならず宗教に対して懐疑的な身にとっては著者の信仰告白は違和感というか抵抗がある。将棋という研ぎ澄まされた勝負の世界で生きるためには、こういった盲目的に信じることができる信仰という名の気休め（失礼！）が必要なのかなぁとも思うが。

将棋を知らず、信仰を持たない身にとっては全くトンチンカンな一冊だったかもしれない。