水が世界を支配する　　　スティーブン・ソロモン　　　　集英社　

3.11の震災からしばらくの間水道が止まった。水がないということが、どれほど不便かということを実体験しただけに本書の警告は身にしみた。

水がなければ生命は存在できない。即ち、水がなかったら人類は存在できなかっただろうし、人類が築いてきた歴史と文明、人類がこれから築くだろう未来も水なしではあり得ないのだ。

本書は、人類史、そして文明史を「水」という人類にとってなくてはならないものを軸に詳細かつ広範に亘って叙述すると同時に、人類が、水のさまざまな効用を開拓することによっていかに進歩を遂げてきたかを語る労作である。

又、70億にも達した人類が、限られた量しか存在しない淡水を今後どのように分け合い使っていくべきかを、食料・エネルギー・気候変動といった側面から説くというまさにタイムリーな啓発書でもある。

本書を読んであらためて認識したが、水は古代から人類にとってそしてその文明にとって最重要の資源であった。

四大文明は大河という水資源の豊富な地域に起こったし、人類にとって最大のイノベーションであった農耕は、灌漑という水利用が出来るようになったことで実現した。

水の輸送路としての機能の開発が、西洋の東洋征服、新世界発見へつながったし、又、近代的な経済システムを作った。

蒸気としての水の利用が、産業革命を生み、水洗トイレの発明による公衆衛生革命が人類の平均寿命を飛躍的に伸ばし、巨大ダムの建設がエネルギー革命と急激な人口増加そして都市化を生んだ。

しかし、いま、限られた水資源の濫用は70億に達した世界人類の未来に暗雲を漂わせている。既に水を巡る世界各地での地政学的な紛争は、爆発寸前の状態にまで進んでしまっている。

水の「持てる者」と「持たざる者」の格差は広がっており、水が人の生死に直結する問題であるだけに、その格差は富の格差以上に人類の未来に暗雲を漂わせている。

水に恵まれた日本人には中々想像しにくいことだが、今や地球人口の1/3は清潔な飲み水を確保することすらできないという水危機に直面しているのだ。世界人口が更に増え、90億、100億に達するならば、今の世界における水格差の広がりは、大きな戦いをも招きかねない、すなわち人類の滅亡にもつながりかねない大きな問題を孕んでいるのだ。

本書はその水危機の現状、そしてその改善方法の提言などにも多くの頁をさいている。その提言の実現性はかならずしも明確ではないが、こういった前向きな提言がいくつも詳細に行われている点は、ただ徒に危機を叫ぶだけの啓発本とは一味も二味も違うことは一読瞭然である。

それにしても「今までは世界は石油を巡って争ってきたが、これからは水を巡って世界が争うことになる」という警告は、不気味だ。