世界史の誕生　　　　　　岡田英弘　　　　　　ちくま文庫　　　　　

著者によれば従来言われるところの「世界史」とはヘロドトスが体系化した「地中海型の西洋史」と、司馬遷を祖とする「中国史」を併記したものでしかなかったという。

互いの文化や歴史には共通するものがなく、それぞれが自分達を中心とする全くことなった歴史観（価値観）によって自己完結していたのだからこの二つを源流としてそれぞれ独自に発達した地域史を融合（併記）したものを「世界史」などと呼ぶ訳にはいかないという。

著者はこの西洋と中国の歴史が、1206年にチンギス･ハーンによるモンゴル帝国の成立によって結び付けられることによって漸く世界全体を俯瞰的に叙述する「世界史」が成立し得たと主張する。したがって世界史を観る視点は中央アジアを中心にしていかなければならないと主張する。

この「岡田史観」に基づく本書は、今までの世界史の見方を一変させてくれる斬新なものであって、久々に世界史のダイナミクスを十分楽しませてくれた。

本書における世界史概説は超俯瞰的で、紀元前よりの中央ユーラシアの遊牧民族の東西にまたがる躍動が、中央アジア、西洋、そして中国を中心とする東洋の歴史にいかに影響を及ぼしてきたかを絵巻的に叙述し、1206年のモンゴル帝国成立こそが、「世界史のはじまり」であるとする著者の史観へと導く手腕は、ヘロドトスや司馬遷並みのたいした歴史叙述家ぶりである。

モンゴル帝国の成立が世界を地理的につないだというだけではなく、それぞれの地域における「国家」の成立や、資本主義システムの成立、陸上帝国から海上帝国へのパラダイムシフトを生んだことなどまさに近代、現代世界を形作る契機となったという著者の主張には、やたらと説得力を感じるのは確かだ。