日本は世界5位の農業大国　　　　 浅川芳裕　　　　　講談社　　　　　

農水省や農業団体の主張する日本農業は「農業は儲からないから農業人口は減る一方、食料自給率は40％を割っており、農業人口は65歳平均だから、もっと補助金を出せ」といったものだが、なんとなくこの主張、鵜呑みにできないところもある。

実際、農業人口は減ってはいるが、それでも農業の生産効率が上がっていることによって日本の農業生産量は大幅に増えているではないか。

食料自給率40％という数字も日本だけが、「カロリーベース」という自給率が低くなるように、低くなるようにという意図でもうけられた計算式を使っているからで、世界各国の自給率は「生産額ベース」であり、この方式をつかうと日本の自給率は66％とむしろ世界的にも高い部類になる。

又、農業人口の平均年齢の65歳というのも、いままで兼業又は家庭菜園的な農業をやっていた中高年が定年退職後に農業を「片手間的に」やっている数字をいれるからこうなるだけであって大規模な専業農家での高齢化はみられないなどという事実があるからだ。

なぜ、農水省を中心とした農業の専門家たちが自分達の携わる農業を「俺たちが一番だ！」と叫ぶのではなく、「日本の農業はダメだ、ダメだ」と蔑みたがるのだろうか。

それは数々の農業補助金制度の運用や、農業保護政策を仕事とする彼等にとって、農業が自立しているということになればそのような権限と職を失うことになるからだと著者はいう。

まさに、農水省の役人、天下り、あるいは農協職員たちにとって「農業はダメだ！」といい続けることこそが権益につながっているからだという。

本書の過激ともいえる主張に対して、農業関係者などからは「根拠がない」とか「でたらめだ」というまさに「根拠のない」誹謗中傷が殺到している。瑣末な間違いを然も致命的な誤りであるかのように言い、数々の著者からの質問に対して農水省はデータを隠して答えていないのにも係わらず、著者の主張を（反証データも示さずに）、間違いだ、妄言だと恫喝まがいの誹謗を行うなどの姿勢をみていると、農業利権者集団の姿が、「TPP反対に署名しろ！」と国会議員に恫喝的に迫る農業団体の姿とダブって写り、農業という国にとっての根幹の産業が、今やテロ集団と見紛うばかりの農業利権者たちによってゆがめられている現実に、怒りすら覚える。

出来すぎて困る米の生産を抑えるためにと、日本のうどん屋も使わない、しかも高いコストの小麦への転作に奨励金を出す制度とか、小麦の輸入を独占してその上前をはねる農水省だとかといった、おかしな制度には一切手を付けずにインチキ自給率を振りかざすというのだから―――このままでいくとその内、農水省と民主党の農業制度が、日本の農業を滅ぼすということになりかねないとまで思う。

(10年2月発行)