はじめて学ぶ生命倫理　　　　 小林亜津子　　　ちくま書房　　

日本人の死因第4位は肺炎であるが、その92％は65歳以上の高齢者である。

かつて肺炎は「老人の友」といわれ、老人がもっとも安らかに死ねる病だともされていたが、近年は抗生物質をはじめ、様々な高度医療が施されるようになって肺炎による死亡は減っている。

しかし、人はいつか死ぬのだから、肺炎から生還した老人が、例えばその3日後に脳出血やがんで苦しみながら死んだとすれば、その医療は「命の尊さ」という観点からやはり賞賛されるべきなのだろうか、それとも―――。

最早、痛み止めも効かなくなった末期がん患者が、「楽にして欲しい」と懇願している場合、医療者は何をなすべきなのか、結合双生児の分離手術をしない場合、二人とも死んでしまうが、分離手術をした場合一人だけは助けられるとしたら、どうするべきなのか。

レイプによって妊娠させられた14歳の少女は、国の法律やカソリック協会が禁じる堕胎を受けられないなら自殺するという。どうすべきなのか。

生命倫理の問題は、医療が高度化するにしたがってますます複雑化してきており、この倫理問題は、一刀両断に答えがでるような問題でもない。

本書は、こういった生命倫理の問題の実例を引き、又、「ブラックジャック」やテレビドラマなどの例をひきながら分かり易く説こうとするものだ。

もちろん、いずれの問題も簡単に答えがでるようなものではないが、自分自身で生命倫理について考えるためには大いに参考になる指針が示されている。