すごい実験　　　　　多田将　　　　　　イーストプレス　　　

世界有数の量子加速器J-PARCを見学したことがある。

日本が世界をリードする素粒子物理学の最先端実験施設であるJ-PARCは光速に近い速度にまで加速させた陽子を正面衝突させてニュートリノを発生させる−−−などの実験を行っている巨大施設だが、建設費用は1500億円もかかっているというから、蓮舫さんの仕分け前に完成してほんとうによかったとも言える代物である。

J-PARCの職員の方に施設を案内していただき、この巨大な実験施設で何をするのかを懇切丁寧に説明してもらったのだが、見えない程「極小の陽子を光速に近い速度まで加速して---」というあたりでもはや素人にはその説明されている事柄を具体的なイメージとしてとらえることがどうしてもできず、なんとも不得要領のまま帰ってきてしまった。

折角の見学だったけれど、「凄い施設だったが、一体これで何をやろうとしているのか結局理解できない」といった結果に終わってしまったのはまことに残念だった。以後、様々な量子力学、素粒子物理学の本を読んだが、それでも尚、理解しがたいままに終わっていたのだが−−−。

本書は、現在J-PARCで研究に携わっている素粒子物理学者の著者が、高校生を対象に行った授業をもとに書かれたものであり、「J-PARCとはどのような施設なのか」「素粒子物理学とはいかなるものか」といったタカさんがJ-PARC見学で積み残しにしてしまった数々の疑問を、実に分かり易く教えてくれる1冊になっている。

高校生向けの授業という形式だけに分かり易いというだけではなく、著者自身が素粒子物理学の最先端研究を並々ならぬ情熱をもって行っており、又この実験の一員として参加していることが、楽しくてしょうがないという思いが、授業に溢れているだけに読むものにとっても実に楽しい一冊になっている。専門家が情熱を持って人に自分の専門を理解させようという授業なのだから、面白くない訳はない。

折から欧州のCERNでヒッグス粒子の存在が確認されたかもしれないというニュースが飛び込んできた。素粒子物理学は、今ますます面白くなってきている。